今回はポスト印象派の代表的画家の一人ゴーギャンの総合主義に着目します。
総合主義は、芸術とは自然形態の外観、主題に対する画家自らの感覚、線・色彩・形態についての美学的な考察を総合したものでなければならないという主張に基づいています。この主張に基づき、総合主義の画家は主観と客観を一つの画面に総合し描きます。
上の絵はゴーギャンを一躍有名にした「説教のあとの幻影」(1888)という絵です。フランス北西部ブルターニュ地方田舎の女性たちが協会での説教を聞いた後、聖なる光景を見ているシーンが描かれています。
どこらへんが聖なる光景なのかと言いますと。旧約聖書でヤコブが天使とレスリングするっていうシーンがありまして、右上で戦っているのがその二人です。
ちなみに、ヤコブは天使と格闘した結果として神の勝者を意味する「イスラエル」の名を与えられるんですが、それがイスラエルという国名の由来となってるみたいです。
日常と非日常の融合
彼女らの服装はブルターニュ地方に伝統的なものでそこは現実的です。また、ブルターニュ地方では、人びとが円状に集まってレスリングをみることは珍しくありません。あくまで彼女らの行動は観察により忠実に描かれているわけです。
しかし、右上の天使との格闘はあきらかに空想世界の出来事ですし、草原の色もオレンジと普通ではありません。
彼は彼女らが現実ではない宗教的幻想世界を見ているのだということを示すため、草原をあえてオレンジで塗りました。彼はオレンジという色を象徴的かつ装飾的な意味合いで使ったのです。
印象派は光を忠実に再現するために色を選びましたが、彼にとっては草原が実際にどのような色をしているかはOut of 眼中でした。
また真ん中の幹は二つの世界を分けるための役割を果たしています。左が現実世界で右が空想世界です。実際に木があったから描いたというよりも意図的に木をそこに配置して描いていることが窺えます。
ちなみに、グラデーションのないべったりとした色の塗りは浮世絵から影響を受けていたりします。
以上の分析から、たしかに彼の絵には統合主義の主張である自然形態の外観、主題に対する画家自らの感覚、線・色彩・形態についての美学的な考察が総合されているように思えます。
彼はこのようにして日常と非日常を繋ぐ独特な絵画を生み出しました。幻想的なゴーギャンの視点はシュールレアリスムにも大きな影響を与えます。
この絵によりゴーギャンは有名になるわけですが、後に彼は未開の楽園、原始的な美を求めてタヒチに行き創作活動を続けます。彼はそこでまた独特なスタイルを発展させていくのですが、そのことについては他の記事で書きたいと思います。