今回は19世紀末から20世紀初頭にかけて流行った装飾美術に焦点を当てたいと思います。
装飾美術というのは器具や建造物など、実用品の装飾を目的とする美術のことです。いわゆる純粋美術とは区別されます。アートと言うよりデザインに近いです。
19世紀末にはアール・ヌーヴォー、20世紀初頭にはアール・デコという装飾美術の運動が西洋を中心に起こります。それぞれ特徴を見てみましょう!
自然の再発見、アール・ヌーヴォー
19世紀末に現れたアール・ヌーヴォーは「新しい芸術」を意味しています。基本手作りで一品ずつ熟練の技術で作られていきます。
特徴は有機的な曲線です。植物や昆虫などに見られる滑らかな曲線を職人たちは観察しデザインに取り入れていきました。優しくのびのびと流れていくようなフォルムは内向的で女性的なイメージを彷彿とさせます。
また、鉄やガラスといった当時の新素材が使われたことも特徴です。
自然の美を再発見し日常に取り入れるといったプロセスは、時を同じくしてヨーロッパにもたらされた日本美術や原始美術の影響を受けています。
自然をモチーフに洗練された美しいデザインが特徴のアール・ヌーヴォー。しかし、有機的な曲線は大量生産できずコスト高だったので、結果として一般庶民へはあまり普及しませんでした。
そんなアール・ヌーヴォーの代表的画家といえば、そうみんな大好きミュシャです。彼は画家というよりもグラフィックデザイナーやイラストレイターといった方がより正確かもしれません。彼の描く美しい女性や曲線、優しい色使いが多くの人を今でも魅了しています。
「黄道十二宮」(1896-97)では植物や曲線といったアール・ヌーヴォーの要素がふんだんに盛り込まれています。ちなみに黄道十二宮というのは太陽の通り道である黄道を12等分して12星座がそれぞれ当てはめられた領域のことを言うそうですよ。
都市生活との調和、アール・デコ
その特徴は幾何学的な固い曲線です。アール・ヌーヴォーとは逆にアール・デコではシャープでキレのある水平線や垂直線がデザインに多用されます。この幾何学的表現はキュビスムなどから影響を受けてたりします。
文明の急速な発展と共に自動車や工業製品などの台頭が近代都市生活を生み出します。そのような都市生活にマッチしたデザインがアール・デコだと言えます。
アール・デコの理想は「生活の中に芸術を」。幾何学的造形は安価での大量生産と洗練されたデザインの両立を達成するのにうってつけだったのです。
ニューヨークのエンパイアステートビルなどはアール・デコの建築様式で作られました。
アール・ヌーヴォの代表的画家のミュシャを紹介したので、アール・デコの代表的画家も紹介します。
この絵はレンピッカによる「自画像」(1929)です。車に乗った女性はヘルメットと手袋を着けています。控えめな色使いと口紅の赤がコントラストを生みだしています。都会の生活を感じさせる絵ですね。彼女の自画像は自己主張をする自立した女性のリアルなイメージであると言われています。
アール・ヌーヴォとアール・デコ、正反対の美術運動でありながらそれぞれ独自の魅力を持っています。アール・ヌーヴォ調の家具やアール・デコ調の家具で部屋をコーディネートしてみるのもおもしろいかもしれません。
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