「近代絵画の父」セザンヌと新たな視点



ポスト印象派四天王シリーズ、最後の画家はセザンヌです。彼は「近代絵画の父」と呼ばれるだけあって彼以降の美術をひっくり返してしまうような革新的な絵画を生み出しました。その革新性について今回は書いていきます。


彼は印象派に厳密性や確固たるものを求めました。その結果として多角的視点や構造的視点という新たなものの見方を生み出し、「絵画の世界」へのドアを開きます。

多角的視点の導入

セザンヌの偉大な功績は多角的視点を発見し絵画に導入したことです。


多角的じゃないものの見方、とは1点から固定されたものの見方のことです。頭を動かさずに片目をつむって目の前を見てください。それが1点から固定された見方です。


セザンヌ以前の画家はそのような視点から絵画を描きました。というか当たり前のことすぎて固定された1点からの視点という認識もなかったと思います。


上の写真が1点からの固定された1つの視点の例です。



しかし、セザンヌはそのやり方では本当にぼくらが見ている光景を正確に写しとることはできないといいます。


ぼくらは二つの目を持っています。そして、右目と左目で見えている光景はそれぞれ微妙に異なります。この時点で1点からの視点というのは不自然であると言えます。


それに加えて、ぼくらが何かを観察するときは、頭を傾けたり、近づけたり、引いたり、高さを変えたり色んな角度からものを見ています。でもなぜか、そんな観察の結果生み出される絵画はまるで一つの固定されたレンズから撮られた写真のようです。


彼はその方法では不完全だと主張しました。


そんな彼の解決策は複数の視点を絵画に取り入れることでした。たとえば、前から見たりんごと斜め上から見たりんごを画面に同時に描いてみたり。


これは彼の「りんごとオレンジのある静物」(1895)です。椅子を斜め上から見下ろしている視点ですが、その割にはその上に乗ってる入れ物の角度が不自然だったりします。微妙なんであんまり気づかないんですけどねw


この複数の視点を一つの画面に取り入れる手法は後にピカソのキュビスムにつながっていきます。

構造的視点の導入

多角的視点だけでも十分革新的なのですが、他にも彼を「近代絵画の父」と言わしめる発見があります。


自然を形作る基本構造の発見です。これは簡単にいえば、風景を□や△といった基本的パターンで捉えるという視点のことです。


たとえば、普段りんごを見るとき模様とか色をまじまじと観察しませんよね。ぼくらはまず丸いものを◯として単純化して認識します。


風景もそうです。葉っぱの一枚一枚をじっくり見ることはありません。木は長方形、山は三角、太陽は丸としてまず認識します。複雑な風景はそのような基本的パターンの集まりで捉えることができます。


これらのパターンは普遍的です。どこの時代でも国でも□は□、◯は◯。セザンヌはそのような基本構造を絵画上に配置しなおすことで、普遍的な自然の構造を描こうとしました。結果、風景は極端に単純化されて描かれます。


彼の「セントビクトワール山」(1904)では風景が四角や三角などの形に単純化されています。

絵画の世界へようこそ

これらの手法により彼は普遍的で変わらない本質を正確に厳密に描こうとしました。


でもそのことにより逆にリアルな描写から遠ざかってしまうという矛盾を抱えます。実際ものを見るときに前からの視点と斜めからの視点は混じらないし風景はもっと複雑です。セザンヌの絵よりも写真の方がリアルだとほとんどの人は感じます。


しかし、結果として彼は絵画を単なる現実の模倣を超えた次元へと導きます。


それが、「絵画の世界」!


絵画は模倣ではない。つまり、現実に依拠しない存在である。よって、絵画はスタンドアローン。絵の中に描かれた人やものは絵画空間に存在するのであり現実のコピーではない。色や線、かたちから構成される現実切り離された空間、「絵画の世界」の誕生です。


彼以前の絵画はリアルの追求でした。彼以降は絵画が現実からどんどん離れていって難解なものになっていきます。ゆえに彼は「近代絵画の父」と呼ばれるのです。













Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...