等間隔に壁に取り付けられた空洞の箱。この作品はミニマル・アートの代表的アーティストドナルド・ジャッドによるスタックと呼ばれるシリーズの一つです。
この作品のおもしろいところ、それはジャッド自身は作品のプランだけ作って実際の箱は職人に作らせるという手法を取ったことです。もはや技術はいらずアイデアさえあれば芸術が作れるってことですね。
じゃあ、この作品の背後のアイデアとはどういうものでしょうか。
最小限のアート
皆さんはミニマリズムという言葉を聞いたことがありますか。日本語だと最小限主義。美術・建築・音楽などの分野で、形態や色彩を最小限度まで突き詰めようとした一連の創作手法です。
そのような手法で作られた作品は、美術の分野だとミニマル・アート、建築だとミニマル・アーキテクチャー、音楽だとミニマル・ミュージックと呼ばれます。
芸術分野でミニマリズムが受け入れられた背景には当時のモダンアートの傾向があります。抽象絵画などに見られるようにモダンアートでは、絵画からリアルさを表現するための遠近法や暗明法などの技術や物語などの文学的要素が排除されていきました。
つまり、現実に依らない絵画の純粋性が追求されてきたということです。その方向性を3次元にさらに突き詰めて無駄なものを一切排除し、形態や色彩などの要素を最小限にしたアートがミニマル・アートです。
ミニマル・アートでは作品に素材に手を加えたという痕跡や意味すら削ぎ落とされ、反復性、対称性、連続性といったものがただ無機質に強調されます。
ミニマルの向こう側
シンプル・イズ・ベストと言いますが、個人的にはミニマル・アートはシンプル過ぎてつまんないっていう側面もあると思います。それに考え方がストイックすぎて窮屈に感じます。それでもミニマル・アートは近代アートに大きな影響を与えたという点で大事です。この後ミニマル・アートに反発してニューペインティングと呼ばれる作品が出てきます。
ニューペインティングでは現実世界にある感情や欲望などのストレートなイメージが特徴で、国の歴史、神話、宗教、性、暴力などを主題として具象的な荒々しいタッチで描かれます。個人的にニューペインティング大好きなのでまた個別に記事を書こうと思います。
また、ミニマル・アートのアイデアこそ大事であるという部分から、コンセプチュアルアートが生まれたり、周りの空間も含めてアートであるという考えからインスタレーションが生まれたり、ミニマル・アートはどんどん派生していきます。
最近、ミニマリズムの考え方がフラットデザインや断捨離、iPhoneを初めとして様々場所で取り入れられてますが、なんとなく手詰まりな感じもします。ミニマルからの転換が今必要とされているのではないでしょうか。