現代美術における原始主義の影響は無視できません。
原始主義を簡単に言えば「人間としての基本に立ち返ろう」というもので、高度に発展しゆく文明社会に対する反発から火が着いた運動です。多くのアーティストが文明に毒されていないアフリカの部族芸術や古代エジプトの壁画などを参考に独特な作品を作りだしていきました。
そんな芸術家の中でも原始主義のアーリーアダプターとも言えるのがゴーギャンです。西洋文明に絶望したゴーギャンは南国に楽園を求めタヒチに渡ります。そこで彼は聖書と現地の神話をダブらせた独特の絵画を生み出していきます。
彼の「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」(1897)はとても有名な作品です。
伝統により熟練された西洋美術の様式に飽き飽きしていた若いアーティストたちは異国情緒あふれる未知の世界の虜になっていきます。現実や技術ではなく感覚や感情に従って色や形を扱うといった原始主義のやり方は西洋美術を根底から覆すようなイノベーションだったのです。
マチスとピカソと原始美術
ポスト印象派の後に現れるフォーヴィスム(野獣派)も多分にその影響を受けています。フォーヴィスムの最大の特徴は「色彩の開放」。今まで自然を再現する道具だった色が感情を表すための主役となって自由に画面を彩ります。色彩を再現や写実でなく、感覚や感情を表す手段として扱う方法はゴッホ、ゴーギャンに始まりフォーヴでピークを迎えます。
これはマチスによる「帽子の女」(1905)という作品です。この絵は当時の有名な批評家ヴォークセルからまるで野獣によって描かれたようだと批評されました。これがフォーヴィスムの由来です。
また、原始美術はピカソにも大きな影響を与えます。
左がアフリカンアートに囲まれたピカソのスタジオの写真で、右が「アヴィニョンの娘たち」(1907)という絵です。アフリカ彫刻に興味を持ったピカソにより描かれたこの作品はキュビスムの発端とされています。確かに女性の顔がアフリカのマスクのようにデフォルメされて描かれています。
彫刻の世界にもその影響は見られます。
これはコンスタンティン・ブランクシ―による「接吻」(1907-8)です。影響を受けてるというかもはや原始美術そのものといった感じですけども。
このように原始的な美術は西洋美術の文脈に取り込まれ熟成されていきます。
文明の急速な発展は当時の画家たちに原始的な世界を魅力的に見せました。現在でも瞑想がブームになったりと、テクノロジーから離れて人間の本質的な部分にもっと注目していこうという運動が盛んです。今も昔も人びとは原始的な力に魅力を感じるのかもしれません。