今回は素朴派と呼ばれる画家たちを紹介します。
素朴派とは、独学で独自の画風を生み出した画家たちのことを指す言葉で、特別な流派があるわけではありません。
正式な美術教育を受けていないという点ではアウトサイダー・アートと共通しています。しかし、素朴派の画家はもともとどこにでもいるような一般市民だったという点でアウトサイダー・アーティストとは異なります。アウトサイダー・アーティストは彼らよりも生き方や作風がもっと激しく極端です。
それでは何人か素朴派の画家を見てみましょう。
元祖素朴派ルソー
アンリ・ルソーはパリ市の税関に務める普通の市民でした。彼の趣味は絵を描くこと。いわゆる日曜画家というやつです。
彼の絵が世間に認知され、画家としてのキャリアをスタートさせたのは40半ばを越えようかという頃でした。当初、彼の絵は批評家たちにボロカスに批評されます。あまりにも稚拙で「5歳の子供にでも描ける」と。
しかし、彼の稚拙さが彼独特のスタイルを生み出しました。絵本の挿絵のシンプルさと浮世絵の明確さを合わせたような他には見られない絵画は当時の前衛的なアーティストに歓迎されます。
美術教育により多くのアーティストに閉ざされてしまった霊的な世界、人間の根源的な部分へルソーはその純粋さで到達しているのだ。といった評価を同時代の芸術家から受け、一気に有名人へ。
ピカソも彼の絵を何点か所持していて、ピカソ美術館にも展示されています。何かの折にピカソは「ラファエロのように描くには4年かかったが、子供のように描くには一生かかる」と言ったとされています。その意味でルソーは彼の師匠的存在だったと言えるかもしれません。
これはルソーの代表作「夢」(1910)です。ジャングルの中にソファー!この作品は後にシュールレアリスムのお手本とされます。
その他の素朴派アーティストたち
70歳を超えてから絵を描き始めたアメリカの普通の農家のおばあちゃんグランマ・モーゼスによる「家でのクリスマス」(1946)。ドラッグストアーに並べていた絵が注目され、80歳でニューヨーク初個展を開きます。彼女は子供の頃の思い出や懐かしい風景を20年以上も描き続けました。
カミーユ・ボンボアは地下鉄人夫、印刷工やサーカスなど職を転々とする中で絵を描き続けました。これは彼の「自画像」(1930)です。
素朴派の画家たちは正式な美術教育を受けていません。だからこそ彼らの絵を見ると、アートは全員にオープンで人間の基本的な自己表現の方法なんだと再認識させてくれます。彼らのように趣味として絵を描いてみるのもおもしろいかもしれません。