グロテスクなまでにリアルな彫刻
このあまりにもリアルな彫刻はオーストラリアの芸術家Sam Jinksによって作成されました。材料はシリコン、カルシウム、炭酸塩、樹脂、そして繊維ガラス。気持ち悪いまでのリアルさを実現する彼の技術と情熱は鳥肌モノです。
けれど、「結局のところ、ここまでリアリティを求めても写真には勝てないよね」と思う人もいるかもしれません。果たしてアイフォンさえあれば誰でもリアルなイメージを作り出すことが可能な時代において、このようなアートによるリアリティの追求に意味はあるのでしょうか。
写真vs彫刻
リアルさだけで評価するならこの写真のほうが彫刻よりもリアルです。しかし、この写真に写されている彼女には彼女の生活があります。あくまでどこかのお婆さんであるわけで、アーティストによって作られた命なき彫刻とは全くの別物です。
一方で、Sam Jinksの彫刻は本物の人間みたいなのに人間ではないという矛盾を私たちに提示します。生と死という文脈から切り離された彫刻でありながら、我々の有限の人生をありありと描いているというところにこの作品のおもしろさがあります。そのような自己矛盾した存在を目の当たりにしたときに、人はショックを受けて自らの生と死について深く内省するのではないでしょうか。
リアリティを追求するだけなら写真で十分。けれど単なる現実の模写を超越したインパクトを与えるという点において、アートによるリアリティの追求に意味はあると思います。