異常なまでの遠近感、輪で遊ぶ少女、空っぽの荷車、そして姿の見えない長い影。どこかで見たことあるような、なんとなく不安になるような、不思議な静けさの支配する空間を作り出しています。
この作品は「街の神秘と憂鬱」(1914)というタイトルでイタリアの画家ジョルジョ・デ・キリコの有名な作品です。ルパン三世の映画「ルパン対複製人間」でもこのイメージが使われている場面がありました。
あなたの背後の世界
形而上という言葉、聞いたことありますか?これは私たちの日常世界の背後の世界とでもいいましょうか。合理的な思考では理解できない超感覚な世界のことです。
たとえば、神とか死とか合理的に答えを出すことができないものが存在します。そのようなかたちを知覚できないもの・かたちをこえたもの・無形のものが属する世界です。
逆に形而下という言葉もありますが、これはかたちあるものの世界。つまり私たちが知覚できる世界のことです。
デ・キリコは芸術作品を不滅にするためには人間的限界の外側に立たなければダメだと思っていました。なので、形而上の世界を絵画に収めたいと考えたのです。
見えないものを描くために
彼のアプローチはこうでした。形而上の世界には合理的な考えではアクセスできない。その世界は様々なモチーフを合理的ではない関係性で組み合わせることで表現できる。
たとえばこの「謎を愛した男」(1918)。まずタイトルから絵の内容とあってないです。広場に彫刻や城、箱などが脈絡なく配置されています。全てが謎に包まれており合理的な解釈をはねのけるかのように、静寂と不安が満ちた空間がただただ広がっています。
実際これが形而上の世界なのかは誰にもわかりませんが、不思議な感覚を呼び起こす作品であることは確かです。
彼の形而上絵画は後にシュールレアリズムの流れに引き継がれていきます。シュールレアリズムでは無意識の世界や夢の世界を題材にしているので形而上という知覚出来ない世界を扱う彼の絵には共通する部分があったのでしょう。
形而上ってどんな世界なんでしょうね。